私があえて不人気な欝告を発したのは、実は、もっとやってほしいことがあるからで、それはK首相でしかできない規制緩和や特殊法人改革を始めとする本当の意味での構造改革である。 景気を悪くしたらそうしたH内閣が目指した改革は、六匹のウサギを同時に追いかけようとしたために失敗したと言われるが、これは正しい表現ではない。
H内閣が失敗したのは、六匹のなかに財政再建という名のとんでもなく足の速いウサギがいて、しかもこのウサギを最初につかまえようとしたから景気全体がおかしくなって、他の改革も頓挫してしまったのである。 もしもあの時、H総理が財政再建だけは後回しにして、他の五匹を追っていたら、歴史はまったく違う方向へ行っただろう。
今回のK内閣も、六匹は追っていないようだが、追っているウサギが間違っている。 不良債権処理だとか財政再建などの足の速いウサギばかりを追いかけているから、こちらがどんどん疲れてしまって、ほかに追いかけなければいけないウサギは放ってある。
本当の意味での改革は絶対に難しくなる。 景気を悪くして敵を増やすようなことはしてほしくし、H元首相のように高い理想を掲げても、結局は改革半ばで終わるようなことになるのである。
実は、K政権が進めようとしている不良債権処理も財政再建も両方ともかなりみみっちいである。 今出ているのは一二・七兆円の不良債権処理と新規国債発行を三○兆円に抑えるとう話だが、三○兆円に抑えたにしても決して少ない財政赤字ではないし、一二・七兆円の不債権処理も、問題債権一五○兆円の一○分の一にもならない。
しかし、景気がすでに大幅なマイナス成長に向かっている時に、すこしでもその流れを加速している。 ただ、K政権が不良債権問題と財政再建を後にして規制緩和を先にやると言うと、一つ気になるのは、国内でも海外でもK首相は改革を諦めたととる人が出てくることである。

これに対しての正しい反論、つまり本当の改革は規制緩和や行政改革であり、不良債権問題や財政再建は戦後処理だということを、国内でも海外でもはっきり言わなければいけない。 その努力を怠ったら、既得権益派と改革派の両方から攻撃にさらされるだろう。
平時なら大した影響がなくても、今のような状況ではマイナス成長を大幅に加速させかねないからだ。 ただでさえ対米輸出が激減してみんなが真っ青になっている時に、さらに人々の不安を高めることはやるべきではないのである。
つまり今の日本は、少しでもボタンを押し間違えたらとんでもない悪循環が始まるから、どの順番でボタンを押すかを慎重に考えなければならないのである。 ただ、その一方で、正しいボタンを押せば、一番落ち込むリスクが少ないのも日本なのである。
なにしろK政権は、国民的な支持はあるかもしれないが、自民党内や株式市場では必ずしも支持がたくさんあるわけではない。 そういうなかで既得権益の中央突破をやるには、味方をたくさんつけておかないと成功する確率は激減してしまう。
やはり自民党だ、やはり族議員だったではないかとなってしまったら困るのである。 特に海外で日本を見ている人たちは、多くの場合英文の情報しか持っていない。

しかも、英米では証券会社の社会的地位が高く、当局者を含め多くの人たちが彼らの書いたレポートを読んでいる。 私自身、ニューヨーク連銀にいた時には、ずいぶん米国証券会社のレポートを参考に仕事をしたものだ。
これらの証券会社の日本における大きな業務の一つに、経営に行き詰まった日本企業が外資の傘下に入るのを手助けするというのがある。 その彼らからしてみると、助けを求めてくる日本企業が増えれば増えるほど収益が上がることになる。
ということは、彼らの立場からすると日本企業が助けを求めにこなくなる景気対策は悪で、その逆は善ということになる。 また、日本経済がガタガタになれば、それだけ外資が入るスキマもできてくるし、構造改革で外資参入の道が開ければ、それにこしたことはない。
そうなると、これらのレポートはどうしてもミクロの構造改革の遅れを諸悪の根源と書きがちなのである。 私は、外資が参入してくることは賛成だが、海外の金融当局を含む多くの読者がこれら「我田引水」のレポートを鵜呑みにして、マクロのバランスシート不況の可能性に気づいていない実態は困ったことだと思う。
また、日本に関する英文報道を書いている人たちの多くは、日本人を含めてアングロサクソンの市場原理に基づくやり方が正しくて、アジアの日本は変なことをやってきたのだろうという先入観を持っている。 しかも、日本は構造改革が必要という文章を書く人は、一種の優越感にひたることになる。
相手の構造を非難するということは、相手のすべてを否定しているのに近いからだ。 この傾向は、それ以前の日本やアジアの躍進を好ましく思っていなかった人々のなかに特に強い。
前述のように、限界的には海外の論調に変化が見られるものの、これまでの一○年間、全世界が日本の構造改革の必要性に洗脳されていたのである。 日本でも一部、T氏みたいに何が何でも構造改革と言う人がいて、話を複雑にしてしまっている。
この定着してしまった固定観念を変えるにはかなりの労力が必要である。 ただ、ここはきちんと説明すれば必ずわかってもらえる。
実際に私は、N諸券の全世界のお客さんに構造問題よりもバランスシートの問題であるということを説明して回っているが、日本経済の全体像を正しく説明すれば、彼らはそういうことだったのかとみんな納得してくれる。 「今の日本はバランスシート不況だ。
九○年代に資産価格が大きく下がった結果、企業がみんな借金返済に走っている。 あなた方だって、その場にいたらそういう行動をとるだろう。
それで、みんなが同じ行動をとったから不況になったのであって、決して企業や政府の怠慢が不況の原因ではない。 しかもこれは民間対民間の問題で、ある人の負債は別の人の資産だから、全員のバランスシートを修復する以外には、この経済がよくなる理由はない。

全員のバランスシートを修復するには、景気を維持して彼らの借金返済の原資を確保しなければいけない。 景気を維持するには、金融政策が効かない今、財政しかない。
財政は、国債の価格が史上最高値であることを見ても、ちゃんとマーケットが認めている政策である。 だから、日本政府がこれかしかし実際問題として、今のK政権は間違った意味での構造改革を公約してしまったので、よほどの事態にならないとなかなかUターンはできないだろう。
そういう意味では、景気も株価もかなり厳しい世界に直面するだろう。 とはいえ、H政権の時もそうだったが、政治家は本当にひどくなれば自分たちが当選できなくなるから、必ずUターンはあるだろう。
どこかで戦後処理の部分と本当の構造改革を分けて、最終的には現実的な政策に戻ってくると思われるのである。 しかしその一方で、K政権がこのまま政策転換をしなければ本当に景気は悪くなる。
本当に景気が悪くなったら、あらゆるところから反発が出てきて、すべてが敵に回る。 そうなれば、今ここに挙げたような正しい意味での構造改革も、おそらくできなくなる。
K首相も政権の座から引きずり下ろされてしまう。 このように言えば、みんな納得してくれる。

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